「16時間断食で−5kg」。
Instagramで見かけた体験談に背中を押されて、朝ごはんを抜いてみた。
1週間、2週間と続けてみたけれど、体重は変わらない。それどころか、午前中のイライラがひどくなって、お昼になった途端にドカ食い。
結局、1ヶ月もたずにやめてしまった──。
もしこの経験に心当たりがあるなら、知っておいてほしいことがあります。
うまくいかなかったのは、あなたの意志が弱かったからではありません。
40代後半からの体は、20代・30代とはホルモンのバランスが大きく変わっています。
その変化を知らないまま「若い人と同じルール」で断食を始めると、痩せないどころか、体に余計な負担をかけてしまうことがあるのです。
この記事では、断食を「やめなさい」とも「おすすめします」とも言いません。
メリットとリスクの両面を整理して、あなた自身が「わたしに合うかどうか」を判断できる材料をお渡しします。
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更年期に「断食で痩せない」が起きる理由

断食がうまくいかない原因は、断食のやり方だけではありません。
そもそも更年期の体が「痩せにくい状態」に変わりつつあること──ここを知らないと、どんなダイエットも空回りしやすくなります。
40代後半から、体は「省エネモード」に入りはじめる
更年期に差しかかると、女性ホルモン(エストロゲン)の分泌が少しずつ減っていきます。
エストロゲンには、食事で摂った糖をスムーズにエネルギーに変える「アシスト役」のような働きがあるのですが、このアシストが弱くなると、体は糖をうまく処理できなくなり、脂肪として溜め込みやすくなります。
「食べる量は変わっていないのに太る」「お腹まわりだけ肉がつく」──更年期のこうした変化は、食べすぎが原因ではなく、ホルモンの変化によって体が省エネモードに切り替わりつつあるからです。
この「痩せにくい土台」ができている状態で断食を始めると、次に紹介する「ストレスホルモン」の問題が重なって、
ますますうまくいかなくなるケースがあるのです。
朝ごはんを抜くと、体は「飢餓だ」と勘違いする
わたしたちの体には、コルチゾールというストレスホルモンがあります。
名前は難しく聞こえますが、やっていることはシンプルです。
「エネルギーが足りない!」と体が感じたとき、コルチゾールが出動して、体内に蓄えてあるエネルギーを引き出して血糖値を維持しようとする──いわば「緊急時のエネルギー係」です。
朝ごはんを抜いて断食をすると、体はこの「緊急モード」に入ります。
脳は「食べものが入ってこない、これは一大事だ」と判断して、コルチゾールをたくさん分泌します。
ここで問題なのが、更年期の体はストレスホルモンの影響を受けやすくなっているということ。
女性ホルモンが減ると、ストレスホルモンへの「ブレーキ」が弱くなり、同じストレスでも体が過剰に反応しやすくなることが研究で指摘されています。
つまり、20代の人が同じ16時間断食をしても平気なのに、更年期世代では体への負荷がずっと大きくなる可能性があるのです。
「我慢しているのに痩せない」の正体
ここまでの話をつなげると、「断食しているのに痩せない」がなぜ起きるか、見えてきます。

朝ごはんを抜く → 体が「飢餓だ」と感じてコルチゾールを出す → 体は脂肪を燃やすより、まず血糖値を守ることを優先する
→ エネルギーを「使う」モードではなく「溜め込む」モードに入る → お昼にドカ食いしやすくなる
→ 結果、体重は減らない
しかも更年期では、先ほどの「省エネモード」とこの「溜め込みモード」が重なります。
我慢しているのに痩せないのは、意志の問題ではなく、体が二重のブレーキをかけている状態だったのです。
もちろん、すべての人にこれが当てはまるわけではありません。
でも、「なぜかうまくいかない」「断食するとかえって調子が悪い」と感じたことがある方は、このメカニズムを知っておくだけで、自分を責めなくて済むはずです。
それでも断食にメリットはあるのか?──研究が示す「両面」

ここまで読むと「断食は更年期にダメなの?」と思うかもしれません。
でも、研究データは「全面的にNG」とは言っていません。条件次第では、プラスの報告もあります。
報告されているメリット
時間制限食(1日の食事を決まった時間内に収める方法)に関する研究では、閉経前・閉経後の女性ともに体重が3〜4%減少したという報告があります。
なかでも注目されているのは、お腹まわりの内臓脂肪が減りやすいという点です。
また、食事を取らない時間がある程度続くと、体が「糖を使うモード」から「脂肪を使うモード」に切り替わることが知られています。
この切り替えが、古くなった細胞を新しくする「体の大掃除」機能を活性化するとも言われており、代謝の改善に寄与する可能性が報告されています。
さらに、時間制限食と筋トレを組み合わせると、BMIやウエスト周囲径がより改善したとする閉経後女性を対象としたパイロット研究(2024年)もあります。
見落とされがちなリスク
一方で、あまり語られないリスクもあります。
骨と筋肉への影響が、更年期世代にとっては特に見逃せません。
ある研究では、食事時間を4〜6時間に制限した8週間の試験で、エストロゲンの原料となるホルモンが約14%低下したことが報告されています。
更年期でただでさえ女性ホルモンが減っているなかで、その「材料」まで減ることは、将来の骨密度に影響する可能性があります。
また、断食中に十分なたんぱく質を摂れないと、筋肉量が減りやすくなります。
更年期はもともと筋肉が落ちやすい時期なので、ここにさらにダメージを加えるのはリスクです。
睡眠への影響も要注意です。
ストレスホルモン(コルチゾール)は本来、夜に低くなることで眠りを深くしてくれるのですが、断食で日中のコルチゾールが乱れると、夜もうまく下がらず、眠りが浅くなることがあります。
更年期のホットフラッシュや寝つきの悪さと重なると、睡眠の質がさらに落ちるリスクがあります。
正直に言うと、まだわかっていないことが多い
ここで率直にお伝えしたいのは、更年期世代の女性だけを対象にした質の高い研究は、まだとても少ないということです。
先ほど紹介した「ホルモンが14%低下した」という8週間の研究と、同じ研究グループが行った12ヶ月の研究では、同じホルモンに変化が見られませんでした。
期間や条件が異なるため単純に比較はできませんが、短期と長期で結果が違うということは、「まだ確かなことは言えない」ということでもあります。
だからこそ、ネットで見かける「断食は更年期に最適!」も「断食は更年期に絶対NG!」も、どちらも言い切りすぎです。
大切なのは、メリットとリスクの両面を知ったうえで、自分の体と相談しながら判断することです。
やるなら知っておきたい、更年期の時間制限食5つの条件
ここからは、「それでも試してみたい」という方のために、更年期世代が時間制限食を取り入れるなら押さえておきたい5つの条件を整理します。
これは「やるべき」という推奨ではなく、「やるなら、ここだけは守ってほしい」という安全ラインです。

条件1:まずは12時間から──「16時間」にこだわらない
SNSでは「16時間断食」が当たり前のように語られますが、更年期世代にとって最初から16時間は負荷が大きすぎる可能性があります。
「夕食を20時までに終えて、翌朝8時に朝食を食べる」──これだけで12時間の時間制限になります。
研究でも、12時間程度のTRE(時間制限食)で代謝面のメリットが報告されています。
まずはここから始めて、2〜3週間かけて体調を見ながら、必要なら少しずつ調整するのが現実的です。
条件2:朝ごはんは抜かない
先ほどお伝えしたとおり、コルチゾールは朝に最も高くなり、夜に向かって下がるリズムを持っています。
朝食は、このリズムを「リセット」するスイッチのような役割を果たすと考えられています。
朝食を抜くと、コルチゾールの高い状態が昼過ぎまで続きやすくなり、イライラや集中力の低下、午後のドカ食いにつながりやすくなります。
もし食事時間を短くするなら、削るのは「朝」ではなく「夜」。
夕食を早めに終える12時間断食のほうが、体のリズムと合いやすいのです。
ある研究では、朝にしっかり食べたグループのほうが、夕食をしっかり食べたグループより体重減少が大きかったことも報告されています。
条件3:食べる時間が短いからこそ、たんぱく質を意識する
食事の回数が減ると、1日に必要なたんぱく質が不足しやすくなります。
更年期はただでさえ筋肉が落ちやすい時期。
筋肉が減ると基礎代謝も下がり、さらに痩せにくい体になるという悪循環に入ります。
食事のたびに、手のひらサイズのたんぱく質(お肉・お魚・卵・大豆製品など)を摂ることを意識してみてください。
時間制限食と筋トレの組み合わせが体組成の改善に効果的だったとする報告もあり、「食べて動く」がセットであることが大切です。
条件4:こんなサインが出たら、立ち止まる
断食を続けていいかどうかの判断で一番大切なのは、自分の体のサインを無視しないことです。
次のような変化が2週間以上続いたら、やり方を見直すか、一度お休みすることを検討してください。
・午前中のイライラや集中力の低下が続く ・寝つきが悪くなった、夜中に目が覚めるようになった ・断食を始めてからホットフラッシュがひどくなった ・食事の時間になると、我慢できないほどの食欲が出る ・体重が減るどころか増えている
これらは、体が「この断食、わたしには負担が大きいよ」と出しているサインかもしれません。
断食は我慢比べではありません。
体に合う範囲で行ってこそ、初めてメリットが生まれる方法です。
条件5:断食の前に「土台」を整える
実は、断食よりも先にやったほうがいいことがあります。
まずは睡眠。
慢性的に6時間未満の睡眠が続いている状態では、それだけでストレスホルモンが高止まりしやすくなります。
そこにさらに断食のストレスを加えるのは、疲れた体にもう一仕事させるようなものです。
次に、日常のストレス管理。
仕事・育児・親の介護──40代後半は人生でもっともストレスが重なりやすい時期です。
すでにストレスが高い状態で断食を始めると、体への負荷が想像以上に大きくなることがあります。
更年期のダイエットは、「何を減らすか」より「何を整えるか」から始めるほうが、遠回りに見えて実は近道です。
わたしの実感──「ゆる時間制限」を試してみて

わたし自身、40代後半に16時間断食を試したことがあります。
最初の1週間は「朝ごはんを抜くだけでいいなんて簡単」と思っていました。
でも2週目に入ったあたりから、午前中にぼんやりする時間が増えて、お昼になると「もう無理!」とばかりにがっつり食べてしまう。
普段はお弁当を作っていますが、それでも足りず…コンビニで買い足してしまうという悪循環。
体重は変わらないのに、なんだか体が重い。
あの頃は「自分の意志が弱いんだ」と落ち込んでいたのですが、今思うと、体が朝のストレスホルモンに振り回されていたのかもしれません。
その後、いろいろ調べるなかで「16時間にこだわる意味はないんだ」と気づいて、夕食を19時半くらいまでに終えて、翌朝7時半に朝食をとる──約12時間の「ゆる時間制限」に落ち着きました。
劇的に痩せたかというと、正直なところ体重の変化はほんのわずかです。
でも、午前中のだるさがなくなったのと、夜の間食が自然に減ったのは実感しています。
数字には出にくいけれど、「体のリズムが整ってきた感覚」はたしかにあります。
これはあくまでわたし個人の感覚であって、科学的な証明ではありません。
でも、自分の体の声を聞きながら「ちょうどいい落としどころ」を探ることの大切さは、身をもって感じています。
よくある質問
「向いていない」と一概には言えませんが、最初から16時間にするのは負担が大きい可能性があります。まず12時間からスタートして、体の反応を見ながら13時間、14時間と段階的に調整するのが安心です。
血液検査で測ることもできますが、日常的には「午前中のイライラや集中力の低下」「夜の寝つきの悪化」「食事の時間になった途端の強い食欲」が目安になります。断食を始めてからこうした変化が出た場合は、体に負荷がかかりすぎているサインかもしれません。
「ベスト」は人によって異なりますが、出発点としては12時間(例:7時〜19時の食事時間)がおすすめです。朝食をしっかり摂って、夕食を早めに切り上げるスタイルが、体のリズムにも合いやすいとされています。
組み合わせること自体は可能です。ただし、空腹のまま激しい運動をするとストレスホルモンがさらに増えやすくなります。運動は食事を摂った後の時間帯に行うか、運動前にヨーグルトやゆで卵など軽くたんぱく質を摂ってからにするのがおすすめです。
HRTと時間制限食の併用を直接調べた研究は、現時点では見当たりません。薬の服用タイミングと食事時間の兼ね合いもあるため、必ずかかりつけの婦人科医に相談してから始めてください。自己判断は避けましょう。
まとめ──断食は「する・しない」ではなく「どう使うか」

更年期世代にとって、断食は「やれば痩せる魔法」でも「絶対にやってはいけない危険行為」でもありません。
この記事で整理したように、女性ホルモンが減りつつある時期に断食というストレスを無自覚に重ねると、体が「溜め込みモード」に入ってしまい、逆効果になることがあります。
でも一方で、適切な条件のもとで取り入れれば、内臓脂肪の減少や代謝の改善といったプラスの報告があることも事実です。
大切なのは、「する・しない」の二択ではなく、「自分の体にとって、どう使うのが合っているか」を冷静に見極めること。
そのために必要なのは、体の仕組みをざっくり理解すること。
自分の体のサインを観察すること。そして、無理をしないこと。
「痩せなかった」のは、あなたのせいではなかったかもしれません。
体の仕組みを知ったうえで、もう一度、自分にとっての「ちょうどいいダイエット」を選び直してみてください。
参考文献
注釈|本記事で参照した主な研究・知見 本記事では、「更年期世代に断食ダイエットは合うのか」という問いに対し、単なる体験談や印象論ではなく、内分泌学・栄養学・時間生物学の知見を踏まえて構成しています。以下は、本文の背景となっている主な研究・レビューです。
- Kalam, F., Akasheh, R. T., Cienfuegos, S. et al. (2023). Effect of time-restricted eating on sex hormone levels in premenopausal and postmenopausal females. Obesity, 31(Suppl 1), 57–62. 内容:4〜6時間TREを8週間実施した閉経前・閉経後女性において、DHEAが閉経前で約14%・閉経後で約13%低下(いずれも有意)。エストラジオール・プロゲステロンは変化なし。なお個人差が大きく(SD ±32〜34%)、結果の解釈には留意が必要。
- Lin, S., Cienfuegos, S., Ezpeleta, M. et al. (2024). Effect of time-restricted eating versus daily calorie restriction on sex hormones in males and females with obesity. European Journal of Clinical Nutrition, 78(9), 814–817. 内容:8時間TRE(12時〜20時)を12ヶ月実施した比較試験。DHEA・テストステロン・SHBGに有意な変化はなく、短期試験(8週間)で観察されたDHEA低下は長期では再現されなかった。
- Chawla, S., Beretoulis, S., Deere, A. & Radenkovic, D. (2021). The window matters: A systematic review of time restricted eating strategies in relation to cortisol and melatonin secretion. Nutrients, 13(8), 2525. 内容:TREおよびラマダン断食・食事スキップを含むIFプロトコルとコルチゾール・メラトニンの関係を検討したシステマティックレビュー。TREによるコルチゾールへの影響はプロトコルによって異なり、結果は混在すると結論。
- Cienfuegos, S., Gabel, K., Kalam, F. et al. (2020). Effects of 4- and 6-hour time-restricted feeding on weight and cardiometabolic health: A randomized controlled trial in adults with obesity. Cell Metabolism, 32(3), 366–378.e3. 内容:4時間・6時間TREの8週間RCT。いずれの群でも体重が約3%減少し、インスリン抵抗性・酸化ストレスマーカーの改善を報告。
- Shkorfu, W. et al. (2025). Intermittent fasting and hormonal regulation: Pathways to improved metabolic health. Food Science & Nutrition, 13, e70586. 内容:72時間絶食でのコルチゾール・ACTH・アドレナリン上昇、早期TREによるインスリン感受性改善など、断食とホルモン調節・腸内細菌叢の関係を包括的にレビュー。
- Garg, R., Chetan, R., Jyothi, G. S., Agrawal, P. & Gupta, P. (2025). Intermittent fasting and weight management at menopause. Journal of Mid-Life Health, 16(1), 14–18. 内容:閉経期女性におけるIFの体重管理・ホルモンへの影響を包括的にレビュー。健康状態・ホルモン・生活習慣に基づく個別化プロトコルの重要性を強調し、食事窓での栄養素密度の確保、レジスタンストレーニングとの併用による筋肉量・骨密度維持を推奨。
補足|本記事のスタンスについて 本記事は、
- 医療行為や治療効果を断定するものではありません
- 特定の断食法やダイエット法を推奨・否定するものではありません
更年期におけるホルモン変化と断食の関係を整理し、「どこまでがホルモン環境の影響で、どこからが自分で調整できる範囲なのか」を読者のみなさまが冷静に判断できる材料を提供することを目的としています。

